山ならではのユニークな食の文化「ヘボ追い」と「ヘボめし」
ヘボの巣を採る時期は年に2回
ヘボの巣を採る時期は2回に分かれます。最初は初夏のころ、まだ出来たばかりの小さい巣を山から掘り出して持って帰り、自宅庭の一角などでヘボを育て、巣を大きくしていく方法です。2回目は11月の初めのころ、大きくなった巣を直接山から掘り出す方法です。
どちらも、ヘボを追って山を幾重も駆け巡り、地中の巣を探し出し、巣を掘り出して持って帰るという大変な労力のいる仕事です。
野を越え山を越え、一匹のヘボを仲間と追いかける
ヘボ追い(地元では「ヘボぼい」のように発音)は地中に巣を作るクロスズメバチの巣を探し出すため、山に入ってまずはヘボを鶏ささみ肉などのエサでおびき寄せます。ティッシュなど目印となるこよりを結えたエサをヘボにうまく持たせ、それを運んで巣に飛んで帰るヘボを追うのです。エサを結えたこよりを目印に、一匹のヘボを見失わないように、仲間とトランシーバーなどを使って連携しながら山の中をどこまでも追います。時には幾重もの山を越えることもあるのだとか。
巣を見つけたら、地中から掘って取り出す
山を越え、ようやくヘボが地面の巣に戻るところを見届けたら、そこが巣が埋まっている場所。刺されないよう防護服を着用し、煙幕を焚いてヘボを眠らせてから、いよいよ地面を掘ります。掘り出した巣はビニール袋などに入れて、持ち帰ります。
自宅庭先などでヘボを育てる楽しみ
初夏のころのまだ小さいヘボの巣を持ち帰った場合は、自宅の庭先などに追いた木箱の中に巣を入れ、ヘボを育てます。巣は下向きに層を重ねていって大きくなっていきます。働きバチが巣にエサを持っていくよう、巣のそばに鶏ささみ肉やアジなどの魚、それに氷砂糖を置いてやります。順調にエサを運ぶ様子を見守りながら、巣が大きくなるのを楽しみに大事に育てます。
山の貴重なたんぱく源、甘辛いヘボめしは贅沢な山のごちそう
育った巣からいよいよヘボの子を取り出します。最近は行う家庭もだいぶ少なくなりましたが、コタツに入り、子どももお手伝いしてピンセットで地道に一匹一匹巣から取り出す作業。こういった経験も、いつまでも残ってほしい山暮らしならではの大事な家族の時間です。
半分成虫になっているものもあるので、歯に引っかかって食べにくい羽の部分はあらかじめフライパンなどで煎って取り外してから、佃煮にします。味付けは各家庭でまちまちですが、酒やしょうゆなどで甘辛く煮ます。出来上がった佃煮をご飯に混ぜて炊けば、ヘボめしの出来上がり。佃煮は保存食にもなり、山の貴重なたんぱく源です。
ほどよく醤油で味付けられた濃厚なヘボの甘さは他にない美味しさで、今も大好物だという人が多い山のごちそうです。
ヘボの巣の大きさを競う「ヘボサミット」
毎年11月3日「東栄フェスティバル」のプログラムのひとつとして行われる「ヘボサミット」は、育てたヘボの巣の大きさを競うもの。町内だけでなく、津具や新城からも強者たちが参加し、よく育てた自慢のヘボの巣をお披露目し、その場で即売するというユニークな競技です。
残念なことに、食文化の変遷や高齢化の影響から、貴重な風習であるヘボ追いに従事する人たちは年々減少しています。山で暮らす知恵が育てた、このアウトドア要素の濃いディープな文化と郷土の味を引き継いていってもらおうと、ヘボの会では若者たちの参加も呼びかけています。興味のある方、ぜひ体験してみてはいかがでしょう。